空き家への備えは、処分の結論を急ぐことではありません。名義、建物の履歴、持ち主の希望、空いた直後の動きを見える状態にし、家族が判断できる家に整える方法を考えます。
親が急に入院し、しばらく実家が無人になった。子どもは合鍵の場所も、給湯器の止め方も、修理を頼んでいた会社も知らない。権利証や図面がどこにあるかも分からない——。
空き家への備えは、亡くなった後だけの話ではありません。転居、長期入院、施設への入居など、家を空ける日は予定より早く来ることがあります。
だからといって、元気なうちに「売る」「貸す」「解体する」の結論まで出す必要はありません。先に整えたいのは、家族が必要なときに判断できる材料です。
国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査では、空き家の約6割が相続で取得され、約6割は所有者の死亡をきっかけに空き家になっていました。相続前に対策をしていなかった空き家は、対策をしていた空き家より、活用や解体の意向がないまま所有され続ける割合が約1.5倍でした。
早く結論を出すことより、家族で話せる状態をつくること。その準備が、将来の空き家を減らす第一歩です。
家の価値は、次の人が判断できる状態まで含まれます
不動産の価値というと、立地、広さ、売却価格を思い浮かべます。しかし、家を引き継ぐ場面では、もう一つ大切な価値があります。
それは、次の人が判断しやすいことです。
立派な家でも、名義や境界が分からない、図面がない、雨漏りの経緯を誰も知らない、家族が持ち主の希望をそれぞれ想像している状態では、すぐには動けません。
ここでいう「もめない資産」とは、絶対に争いが起きない家でも、必ず高く売れる家でもありません。
家族が同じ事実を持ち、住む・貸す・売る・解体する選択肢を落ち着いて比べられる家。
その状態まで含めて、家の価値だと考えます。
売る・貸す・残すを、今すぐ決める必要はありません
住む人がいなくなった家には、大きく分けて次の選択肢があります。
- 家族や第三者が住む
- 建物を貸す
- 土地と建物を売る
- 建物を解体し、土地を売る・貸す
- 管理しながら、当面所有を続ける
どれが正解かは、建物の状態、立地、家族構成、市場、費用によって変わります。今の時点では、「第一候補は売却。ただし家族が住みたいなら相談する」のような仮の希望で構いません。
大切なのは、家族が持ち主の気持ちを推測し続けなくて済むことです。希望は後から変えてもよいので、作成日と一緒に残します。
なお、家族へ渡すメモは、遺言書の代わりにはなりません。誰が家を取得するかなど、法的な効力が必要な内容は、司法書士や弁護士などへ相談してください。
「もめにくい家」にする4つの見える化
1.誰の家かを見えるようにする
土地と建物の登記事項を確認し、名義人、登記上の住所・氏名、共有者と持分、抵当権の有無を整理します。固定資産税の通知書だけで、登記の内容がすべて分かるわけではありません。
2024年4月から相続登記が義務化されました。さらに2026年4月1日からは、不動産所有者の住所・氏名が変わった場合の変更登記も、原則として変更から2年以内に行うことが義務になりました。
名義を子どもへ変えれば安心、共有にすれば公平、とは一律に言えません。生前の名義変更は贈与税などに関わる場合があり、共有者が増えれば、将来の売却や管理で調整が必要になります。変更する前に専門家へ確認しましょう。
2.建物の状態を見えるようにする
新築時の図面、建築確認関係書類、点検結果、修繕・リフォームの記録、設備の品番や保証書は、建物の履歴です。
国土交通省は、こうした住宅履歴情報が点検、修繕、リフォーム、売買の際に活用できるとしています。資料が必ず売却価格を上げるとは限りません。それでも、建物の状態が分からず、活かす選択肢を失うリスクは減らせます。
雨染み、外壁の割れ、床の傾き、設備の不調なども、住んでいる人だけの記憶にしないことが大切です。気づいた日、調べた結果、直した内容を写真と一緒に残します。
3.持ち主の希望を見えるようにする
「できれば住み継いでほしい」「無理に残さなくてよい」「売るなら、まずこの会社へ相談してほしい」。今の希望を、理由と一緒に短く書きます。
結論を強制するためではありません。家を建てた理由、大切にしてきた場所、残したいものを本人の言葉で伝えるためです。
4.空いた直後の動きを見えるようにする
売却や活用の方針が決まるまでにも、家の管理は続きます。
- 合鍵はどこにあるか
- 誰が最初に家を確認するか
- 電気、水道、火災保険をどう扱うか
- 郵便物、庭木、換気、通水を誰が管理するか
- 台風や地震の後に誰が点検するか
- 管理費や修繕費を誰が負担するか
- 緊急時に連絡する会社はどこか
遠方で管理が難しい場合は、空き家管理業者などへの委託も選択肢です。訪問頻度を一律に決めるのではなく、建物、設備、季節、立地に合わせて考えます。
「しばらくそのまま」も、管理を伴う一つの選択です
空き家を当面所有すること自体が、直ちに問題になるわけではありません。ただし、人が住まない家では、換気不足、雨漏り、庭木、害虫、防犯、設備の劣化などに気づくのが遅れます。
適切に管理されず、状態と自治体の判断によって「管理不全空家」や「特定空家」となり、市区町村の指導に従わず勧告を受けた場合は、敷地が固定資産税等の住宅用地特例の対象外になることがあります。
よく言われる「空き家になると固定資産税が6倍」は正確ではありません。空き家になっただけで直ちに特例が外れるわけではなく、実際の税額も土地の評価や面積などで変わります。
使わない家を残すか、貸すか、売るか、解体するか。税金だけで決めず、管理費、修繕費、解体費、建物を活かせる可能性を並べて考えます。
今日できることは、家の情報を1枚にすること
最初から登記や査定を全部終わらせる必要はありません。まず15分で、次の項目を紙1枚に書いてみてください。
- 土地と建物の所在地、現在の名義人
- 登記関係書類、図面、契約書の保管場所
- 点検、修繕、リフォームの履歴
- 現在気になっている不具合
- 合鍵の場所と、無人になった直後の連絡先
- 住む・貸す・売る・解体することへの今の希望
- 最初に相談してほしい人や会社
分からないところは空欄にせず、「不明」と書きます。不明な点が見えること自体が、準備の始まりです。
家族への切り出し方も、大げさに考えなくて構いません。
「もしこの家に半年住まなくなったら、最初に何をすればいいと思う?」
この問いなら、相続の結論を迫らず、合鍵や管理、書類の話から始められます。
これから建てる家も、「次の人が扱える家」にする
将来の空き家への備えは、年齢を重ねてから始めるものだけではありません。新築やリフォームのときから、次の人が扱いやすい家をつくれます。
- 点検しやすく、直しやすい材料や納まりを選ぶ
- 暮らしの変化に合わせて使い方を変えやすい間取りにする
- 図面、仕様、品番、工事写真をまとめて残す
- 点検と修繕の記録を追記し続ける
- 増改築後の図面と手続書類も保管する
将来必ず高く売れる、という話ではありません。家について分かることを増やし、家族が選べる道を減らさないための準備です。
あなたの家には、次の人が事実を確かめ、落ち着いて話し合うための材料がそろっているでしょうか。
萩森建設では、今の暮らしやすさだけでなく、将来の点検、修繕、使い方の変化まで見据えて家づくりを考えます。新築やリフォームの際に、「この家を将来どう引き継げるか」も一緒に整理してみませんか。
※本記事は一般的な情報をまとめたものです。相続、登記、税金、遺言などの扱いは、名義、家族構成、建物の状態、自治体、制度改正の時期によって変わります。実行前に、法務局、市区町村、司法書士、弁護士、税理士などへご確認ください。
